私たちは、自然界の音はもちろん、人間がつくり出した音も含め、音に囲まれて生活をしています。目覚ましの音、携帯の着信音、小鳥のさえずり、テレビから聴こえるアナウンサーの声、子どもたちのはしゃぎ声など、たくさんの音や声が耳から入ってきています。人は音とともに暮らしていると言っても過言ではないと思います。。
しかし、超高齢社会を迎え難聴の高齢者の増加や、若年層におけるヘッドフォン・イヤホン難聴、ストレスによるとされる「突発性難聴」の方も増加傾向にあるとの報告があります。
2011年、前職であるEMIミュージックジャパンにて、50周年の事業企画でスピーカーの研究開発に携わったことで、後の運命を変える衝撃的な発見をしました。それは「難聴で音楽活動を諦める方が多い」ということでした。その気づきは私の父や祖母が難聴であったことも少なからず影響しています。
難聴に関する研究を進めていくなかで、気づいたことがふたつあります。一つは聴こえにくい方々は「聴こえづらいことを語らない」ということ、二つめは話す方も伝えられない辛さがあるということでした。
私はこの気づきから、「コミュニケーションをあきらめてほしくない」と強く思うようになりました。
2013年7月に前職を離れ、12月に開発パートナーの協力を受け、対話支援システム「comuoon」が完成します。
2015年には九州大学病院耳鼻咽喉科の野田 哲平先生により「難聴支援スピーカーcomuoonの有用性」が論文発表されました。
その後も、広島大学宇宙再生医療センターにて研究をすすめ、脳科学の観点から脳における言葉の聞き分け状況などを検証し、comuoonのように高い明瞭度を保つスピーカーシステムは、一般的なスピーカーと比較して一次聴覚野の脳磁場応答が増大し言葉を識別しやすいことが明らかになりました。
本研究成果についても、米国神経学関連誌「Neuroreport」に2017年8月に掲載されて高い評価をいただいています。
これまでの聴覚支援の方法は「きこえにくい人が装用し努力する」ことが一般的でした。対話支援システムcomuoonの発明から10年が経過し『話す側から聴覚支援を行う』新しい支援方法が医療・介護領域において少しづつ定着しつつあります。
世界的に超高齢社会を迎える中、難聴は認知症の最大のリスクファクターでもあることが報告されたことで、難聴について世界が注目しています。引き続き『コミュニケーションをあきらめない』ための技術革新をつづけ、世界の人々のヒアリングフレイル予防と、QOL(Quality of life) クオリティ・オブ・ライフに貢献したいと考えています。
ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社
代表取締役/ファウンダー 聴脳科学総合研究所 所長
中石 真一路