CASE14
重要な役割を担っている鹿児島厚生連病院さま。
やさしい医療現場の創造という観点からcomuoonを導入された事例をご紹介します。
「薬剤師が何度も説明する必要がある」などの課題が年々深刻化していた。
comuoonの導入を検討。確かな効果を実感し、薬局窓口以外にも正式に導入。
患者さんもはっきりと聴こえるようになって双方のストレスが軽減された。
院内処方ならではの悩み
当病院では1980年の開院以来、患者さんの利便性と経済性の確保、また服薬状況や副作用の把握と適切な対応を目的に、病院内の薬局窓口で薬をお渡ししています。2015年度の実績では外来患者の98%以上が院内処方で、一日平均173枚の処方箋に対応しています。
しかし患者さんの高齢化や、難解な薬剤名の増加などの背景から、「呼び出しても聞こえない」「薬剤師が何度も説明する必要がある」「コミュニケーションがとりにくい」といった薬局窓口での課題が年々深刻化していました。薬剤師とのやりとりがスムーズにいかないことで、患者さんの待ち時間が長くなったり、よく理解しないまま服薬することは絶対に避けたかった。そうした小さな不満や不安の積み重ねは、これまでに築いてきた患者さんとの信頼関係に溝を生じかねません。何か解決策はないかとアンテナを張っていた時、たまたまテレビ番組でcomuoonが紹介されているのを見たのです。同じタイミングで、師長からもcomuoonの情報を聞き、直感的に「これは解決の糸口になる」と、すぐに薬局窓口と外来診療、病棟に計3台導入することにしました。
より高度な環境改善をめざす
comuoon導入後に薬剤師の声の音量を検証したところ、確かに「大きな声」で説明する必要はなくなりました。また、検証では86名のうち約半数の患者さんが「聴こえが改善した」と回答し、9割以上の患者さんから「他の人の薬局窓口での会話は聞こえなかった」という回答を得ました。しかし、もっと効果的にcomuoonを活用し、患者さんに変化を体感してもらうため、中石さんと相談しながら新たな課題に取り組むことにしたのです。
当院の薬局窓口は1階外来待合室の一角にあります。多くの人が行き来する中でも、患者さんのプライバシーを守りつつ、聴こえの精度を向上させたい。私たちは「聴こえの改善効果を高める」「プライバシーに配慮する」という2つのテーマを掲げました。話し手の声量やマイクの位置を見直す一方で、「仕切り板」の設置を試すことにしました。
「仕切り板」はcomuoonを通した音声を反響させ、患者さんに伝わりやすくします。同時に、他者に会話の内容が聞こえる音漏れを防ぎます。「仕切り板」は、3タイプ(①アクリル板、②アクリル板に吸音パネルを直接貼付、③アクリル板と吸音パネルの間に1cmのすき間を作る)を用意し、それぞれの窓口の環境を検証しました。結果的に③の、すき間を設けた「仕切り版」が最も音声を聞き取りやすく、他者に音声が漏れにくいことがわかりました。さっそく③の「仕切り板」を設置し、次の患者さんの待機場所をカラーテープで示すよう環境改善したところ、患者さんからは「言葉が聴き取りやすくなった」「はっきり聴こえるようになった」との声が聴かれ、また、薬剤師も「聞き返されることが減った」「クレームが減った」「普通の音量で伝わるようになった」など、ストレス軽減に大きな成果が見られたのです。
この「聴こえの改善」と「プライバシー保護」という2つのテーマをクリアした一連の取り組みは、『卓上型対話支援システム「comuoon」の薬局窓口での有用性を確認』として中石さんとともに学会で共同発表しました。
双方向コミュニケーションの深耕
comuoonを軸にした薬局窓口の環境改善は、「薬の説明が理解しやすくなった」「プライバシーへの配慮がありがたい」「耳が遠くてあきらめていたが、これなら安心」という患者さんの声につながっています。今後はさらに、聞き取りにくい薬剤名をいかにわかりやすく伝えるかといった薬剤師の意識向上を進め、患者さんの満足度向上をめざす取り組みを続けます。同時に外来診療や病棟では、もっとcomuoonを活用できると考えています。
当院は、がん診療指定病院・急性期病院・地域包括ケア病棟など、地域の拠点医療機関として重要な役割を担っています。医療現場には、重篤な疾病の状況説明や手術・治療方針の説明などナーバスな場面があります。医師が治療法や薬の内容について患者さんに十分な説明をし、合意を得た上でこれを実行する、いわゆる「インフォームドコンセント」において、正確に医師の話が患者さんに伝わることは大前提です。しかし実際には、説明内容にショックを受け、心ここにあらずといった状態の患者さんやご家族が少なくありません。医師も思わず力が入って声高になり、表情が険しくなることがあります。このような場面で、患者さんの「聴こえ」の問題をクリアし、普通のトーンでおだやかな会話を可能にするcomuoonの役割は、非常に大きいと言えるでしょう。
外来診療や病棟では、処置中やリハビリ、夜間の病棟見回り時など、さまざまなシチュエーションで患者さんとのやりとりがあります。例えば肺疾患の患者さんは、肺活量が著しく低下するため小さな声でしか話せなくなりがちです。「聴こえ」の問題に限らず、患者さんのか細い声を医師が正しく聴き取る上でもcomuoonは非常に有効です。医療者と患者さんとの対話の障壁が改善され、双方向コミュニケーションが実現する。comuoonはまさに、「聴こえのユニバーサルデザイン」を象徴する、高機能なツールです。
「人」にしかできないことをサポート
comuoonのおかげで、忘れられない想い出もできました。ある高齢の患者さんは、いつも奥様とご一緒に来院されていました。高齢のため聴こえにくく、奥様が耳元で話の内容を復唱する必要があったからです。残念ながら患者さんは逝去されましたが、後日奥様から私あてに手紙が届きました。そこにはcomuoonを通して患者さんと私が、直接会話できたことへの感謝と喜びがしたためられていました。手紙を読むうちに私の脳裏にもそのシーンがよみがえり、奥様の復唱なしに私と患者さんが、お互いに笑顔で会話したことを思い出しました。とても素敵なひと時でした。自然な会話によって互いを理解し、心を通わせる。その実感をcomuoonがもたらしてくれたのです。
comuoonはハードウェア(機器、装置)ですが、そこから得られるのは対話や相互理解といった、温かな体感です。医者の戒めに『病気ではなく、病人を見よ』という言葉がありますが、comuoonには医師と患者さん、つまり人と人との対話でしか得られない真の喜びや信頼関係構築をサポートする高い価値があります。comuoonを活用することで、「人」にしかできないことに専念できる。これは素晴らしいことです。
イノベーションを起こす力
中石さんは、ユーモアに満ち、夢があり、困っている人に何かできないかと常に考え続けている魅力的な人物です。「聴こえにくさ」に対して「周囲が工夫する」という今までにはなかった発想は、彼の柔軟な発想力と、常に「自分は何をするか」という高い当事者意識ゆえに生まれたものだと思います。
余談ですが、画像診断ではおなじみのCTスキャナを世界で初めて開発・販売したのは、英国EMI社です。このEMI傘下にビートルズの所属するレコード会社「アップルレーベル」があり,彼らの記録的なレコード売上が、研究開発資金の調達を可能にしたと言われています。私が若い頃、CTスキャナは「EMIスキャナ」と呼ばれ、業界では「ビートルズの残した偉大な遺産」と言われていました。聞けば、comuoonの原点となったスピーカー研究に中石さんが着手したのは、彼がEMIに在籍していた頃だとか。世界の医療診断技術を一変させたCTスキャナのように、「聴こえ」にイノベーションを起こすcomuoonが、同じ「EMI」というつながりから生まれたことに不思議な感覚を抱いています。
comuoonがもたらす「聴こえのユニバーサルデザイン」が、これからどのように進化していくのか、当院での積極的な実践を通してしっかりと見届けていきます。
鹿児島厚生連病院様WEBサイト
※取材内容は2016年10月時点のものです。